カメラ用レンズの基本

  現状では紛らわしかったり誤解しやすい用語等の解説をメインにしています。

焦点距離

カメラや写真の場合では、画角をあらわすために良く使われる用語で単位はmmです。
焦点距離の値が小さいと広角(ワイド)、値が大きいと望遠(テレ)となり数値に比例して大きく写ります。
従来一般的だった35mmフイルムカメラでは50mm(またはその近辺の数値)の物を標準レンズとしています。
標準レンズの焦点距離は撮像面の対角線の距離にほぼ一致します。人間の目は人の意識で画角(見ようとして認識される範囲)が変わり一定のものではありませんが、標準レンズの画角は人が漠然と「もの」を見るときの画角に近いとされます。「もの」を注視するときの画角は80mm程度とされ、このあたりの焦点距離は中望遠と言われて人物撮影などに向くとされます。単焦点レンズとして一眼レフで使用される場合、レンズの設計に無理がかからず良好な画質が得られる焦点距離とも言われています。
焦点距離の違いは写りの大きさや画角だけでなくボケの程度やパースペクティブにも違いが出てきます。
(ボケは被写界深度の項で触れています。パースペクティブは別項がありますので参照ください。)

35ミリ版換算焦点距離

同じ焦点距離のレンズを使っても、レンズの画像が投影される範囲の大きさが異なれば画角や写る大きさも変わってしまいます。
デジタルカメラに搭載されているイメージセンサーにはさまざまなサイズのものが存在するので、このサイズによってレンズの見かけ上の焦点距離(画角)も変わってきてしまいます。かつての小型カメラでは一番普及していた35ミリフイルムのフルサイズで撮影した場合の値に換算することで互いの比較が出来るようにし、これを35mm版換算焦点距離とか35mm換算値などと言い表します。

テレフォトタイプ、レトロフォーカスタイプ

薄い1枚のレンズの場合は、焦点距離と、レンズの中心から焦点面までの距離は、同じになりますが、複数のレンズを組み合わせた場合は同じにはなりません。たとえば2枚のレンズで光学系が構成されていたとした場合、2枚のレンズの中間点と焦点面までの距離が焦点距離と一致するわけではありません。複数のレンズで構成されている場合は、焦点距離を同じにしても光学系全体の前の方に凸レンズ、後の方に凹レンズを集中させると焦点面までの距離は短くなり、前の方を凹レンズ、後の方を凸レンズにしたものは長くなります。
レンズ全長の短縮を目的に、光学系の後ろの方に凹レンズを配置した光学系はテレフォトタイプとか望遠タイプとよばれます。光学系でいう場合の「望遠タイプ」というのは実際の焦点距離の長短は関係ありません。広角レンズでも、さらに薄型、コンパクト化するために光学系がそのような構成であったとすれば、それも「望遠タイプ」です。 焦点距離は長いのに特にそのような光学系ではない場合は長焦点レンズと呼ばれ区別される場合があります。
逆に前のほうに凹レンズを配置した光学系はレトロフォーカスタイプとか逆望遠タイプとよばれ焦点面までの距離を長くすることができます。何故わざわざ長くするかというと、一眼レフカメラの場合クイックリターンミラーがあり、それにぶつからないようにするために広角レンズにはこのような設計が必要になってきます。
50mm程度の標準レンズにも応用されていて、それらに多用されるガウスタイプと呼ばれる絞りを挟んでほぼ対称形のレンズ構成においても、光学系全体としては後方よりも前方のレンズの屈折を低めにしてレンズ全体を前方に引っ張り出すように設計されています。 昔の標準レンズでそのような設計がされていないものは50mmより少し長めの焦点距離にしてミラーとの干渉を避けていました。
また、前方に凹レンズを配置すると、広角レンズで問題の出やすい周辺減光(画面周辺部分の光量不足)を軽減させる効果もあります。

このような光学系はレンズの描写性能の面からいうとあまり好ましくない場合もあるのですが、それよりも利便性や、構造上やむをえない理由が優先される場合などには積極的に採用されます。

単焦点レンズ、ズームレンズ、バリフォーカルレンズ、2焦点レンズ

誰もが知っていることだと思いますが、単焦点レンズは焦点距離が固定されていて可変できないもの、ズームレンズは焦点距離が無段階に可変式なものを言います。画質を優先するなら単焦点、利便性や撮影チャンスの幅を採るならズームレンズといわれますが、すでに主流はズームレンズとなっています。ズーム倍率が高ければ利便性は高くなりますが、大きさや価格、画質の面では不利になってくる場合が多いので、撮影対象や使用目的との兼ね合いを考慮する必要があります。

焦点距離が可変式のものとしてバリフォーカルレンズというものも古くからあります。
(広義で分類する場合はズームレンズもバリフォーカルレンズの一種です。)
ズームレンズは焦点距離を変更することにより移動する焦点の位置をあるていど正確に補正する仕組みを持つのに対し、バリフォーカルレンズはそのようになっていません。構造が単純にでき低価格化や小型軽量化には有利なのですが、手動でピント合わせをする場合は焦点距離を変更するたびにピントも合わせ直さなくてはならず、カメラ用としてはほとんど一般化しませんでした。
ただし、現在のカメラはオートフォーカスが装備されていて焦点の位置を自動的に補正させることも容易であるので、「ズーム」と称していてもレンズ単体での構造はバリフォーカルであったりもします。(従来の機械的、光学的な補正と区別するため電子補正式ズームともいいます。)

また、焦点距離が変更できる別のタイプのレンズとして、2焦点レンズというものがあります。通常は広角または標準の光学系があり、レバー操作等の切り替えにより、テレコンバータ的な望遠に切り替える光学系が挟み込まれるなどというようなものが一般的で、ワンタッチで望遠撮影もできるカメラを無理なく小型化させることができましたので35mmフィルムカメラより小型なポケットカメラ(=110フイルムカメラ)の上位機種などにはよく採用されていましたし、コンパクトデジタルカメラでも採用されているものがありました。
また、特殊なものとしては広角時にまっすぐ光を進入させる光学経路と、望遠時にミラーで反射させて光を進入させる光学経路に切り替えるタイプのものもあり、小型化と高い倍率を両立させる為に更に有利な方式となっていました。これは屈曲光学系が一般的になる前からすでにそれを応用したような構造のもので、Z光学系などとの呼ばれ方もされていました。
2焦点レンズはデジタルズームと積極的に補完しあう利用法も考えられ、現在でも低価格、コンパクトなカメラにおいてはそれなりのメリットや、存在価値がありそうですが、ほとんど普及しない状態のままのようです。

ただ2焦点レンズの考えをさらに進めるとデジタルカメラの場合、光学系をいちいち機械的に切り替えるよりも 複数の焦点距離のレンズと小型イメージセンサーのセットをカメラに 配置しそれを電気的に切り替えてしまうほうがもっと合理的かもしれません。

近年は低価格、コンパクトなカメラは用途やユーザーが重なるスマートフォンなどの携帯端末の影響で 需要も減り技術的な進化も停滞していきそうですが、 逆にスマートフォンのカメラ機能では上記のような考え方のものが出現してきており いずれは携帯端末の当たり前の機能として普及していくものなのかもしれません。


(単焦点と混同しそうな語句で固定焦点という用語があります。これについては、被写界深度の項で触れています。)

ズーム倍率 、望遠倍率、撮影倍率

ズーム倍率(ズーム比)は、対象とするズームレンズの最望遠の焦点距離の値を最広角の焦点距離の値で割った数値です。
もし同じ10倍のズームがあったとしても焦点距離35mmから始まるレンズは望遠側は350mmとなりますが、24mmから始まるレンズだとしたら240mmにしかなりません。高倍率の10倍ズームといっても望遠側で最大に写せる大きさは異なってきます。ズーム倍率は高くなるほど撮影の守備範囲が広がり、利便性も高まりますが、レンズ描写性能を高くすることは難しくなっていきます。

ズーム倍率とは異なり、カメラ用の望遠レンズの倍率が何倍かという場合は通常は50mm標準レンズと比較して、例えば300mmなら300/50=6倍といった表現をします。正確には「望遠レンズの倍率」なのかも知れませんが、一般に「望遠倍率」で意味が通じます。

撮影倍率(接写倍率)とは、被写体が撮像面(受光素子やフイルム)上に写される倍率のことです。1倍(1:1)まで接写できるマクロレンズは等倍マクロと呼ばれ実物と同じ大きさの画像が撮像面に記録できます。小さな撮像面に1倍で写せるということは、プリントして引き伸ばすと実物より何倍も大きな画像となります。

(注)ここでの焦点距離は35mmフイルムカメラでの換算値です。

F値、T値

F値とはレンズから入る光の明るさをあらわす値でレンズの焦点距離を有効口径で割った数値となり、数値が少ないほど明るいレンズになります。試しに値を当てはめて見ればわかることですが、レンズの焦点距離が長くなれば有効口径も大きくならないとF値が上がって光の明るさは少なくなっていきます。F値は絞り値と同義語で用いられ、一段(一絞り)数値が上がれば半分、下がれば2倍に明るさが変化します。
F値の一段は√2(≒1.4)ずつ値が変わりますが、11以上の場合は小数点以下を丸めて実際に使用される数値はF1.4 、F2、F2.8、F4、F5.6、F8、F11、F16、F22、F32 という系列になります。通常、絞り操作リングの有るレンズはその数値が刻印されています。 一般にレンズはある程度絞った状態で使うほうが描写性能が高くなります。
絞りを全開にした状態のF値は開放F値と呼ばれますが、この値は上記の数値と一致しない場合が多分にあります。中には開放F値が1以下の非常に明るいレンズもあります。

F値が明るいレンズは高価で有る場合が多く、そのようなレンズにあこがれる人も多いと思いますが、必ずしも普及価格のレンズより写りが良いわけではないと評されることがあります。
これは
・明るくするほど描写性能を上げるのが技術的に困難。
・開放F値近辺で良好な描写が得られるように設計されている場合があり、絞り込んでもあまり描写性能が上がらない。
・大量に生産される普及価格のレンズのほうが製品が均質でばらつきが少ない。
などの理由であるとされます。


T値は、F値のように焦点距離と有効口径の関係ではなく、実際にレンズを透過してくる光の明るさを数値であらわしたものです。レンズに入った光は100%透過するわけではなく、一部は反射、吸収などで減衰します。本来T値を用いたほうが正確なのでしょうが、実用上F値と大きな差がなく、ほとんどの場合T値を用いたり、表記していたりすることはありません。
ただし、現在のようなレンズコーティング技術が無かった時代の構成枚数の多いレンズは光がかなり反射してしまいフィルム面まで到達しないためF値とT値の値に開きが出てきます。

被写界深度

カメラや写真を本格的に行うような場合は必須の重要基本知識となります。
被写界深度とはピントが合っているとみなせる被写体の前後の距離の範囲のことでその範囲が広ければ深い、狭ければ浅いという言い方をします。
被写界深度は
・撮影時のF値が明るくなるほど
・望遠レンズになるほど
・撮影距離が近くなるほど
浅くなり、逆の状態では深くなります。

マニュアルでピント合わせ、絞り操作の出来るカメラで撮影した場合、絞り込んで広角で風景を撮るようなときは、おおよその目測でのピント合わせであっても、まともな写真が取れますが、絞りを開けて望遠撮影や接写をする場合は、正確にピント合わせを行わないとまともな写真は撮れません。

この被写界深度の性質を利用すれば、望遠レンズ、開放絞りでポートレートを撮り背景をぼかすことも、広角レンズを絞り込んで、手前から奥までピントのあった写真を撮ることが出来ます。
また通常のレンズは開放よりも絞った状態のほうが描写性能も上がります。ただし、絞りは絞るほどよいというわけではなく、回折現象(=絞りの縁から意図しない外側方向へ光の一部が回り込む現象)の影響が大きくなり、画像が悪化してきます。当然シャッター速度も遅くなりブレも発生しやすくなります。(ブレも望遠レンズでの撮影や、接写の場合におきやすくなります。)

また、被写界深度はピントの合った距離より奥側(遠方側)の方が手前側(カメラ側)より深くなりますので、接写時などはそのことを意識してピント位置を補正して撮影することも考えられます。

F値の明るくない広角レンズが深い被写界深度を持つことを利用し、ピント合わせ機構を意図的に省略した構造の低価格カメラが過去から多数あります。例えば設計上3m位の位置にピントが合うようにしておけば、1.5mから無限遠の範囲でピントが合ったように見える写真が手軽に撮れるといった具合に、意外に実用性の高い仕組みです。使い捨てカメラ(レンズ付きフイルム)もこのような仕組みになっていて条件がよければそのようなもので撮ったと思えないようなきれいな写りをします。 こういう方式は固定焦点と言いますが、パンフォーカスと呼ばれる場合もあります。

極論ですが、もしも速写性や耐久性・信頼性を最優先の機能として特化した、ワイドレンズ装備カメラや遠距離撮影専用カメラを作るとした場合、カメラの他の部分やシャッターが同じものであれば、現在の撮影前に測距・演算してレンズを移動・合焦させる機構のオートフォーカスは、どんなに進化して最高速なものを搭載したとしても合焦タイムラグが存在しない固定焦点カメラには勝てないということになります。 また、AFやレンズ繰り出しの機構そのものが存在しない固定焦点カメラには故障率や誤作動(≒耐久性・信頼性)の面でも永遠に勝てないということになります。(オートフォーカス速度に関してはAFモードを切ればよいですが、それではAFを装備している意味がなく当然重量やコストでも負けます。)
もしかすると、たとえば過酷な自然環境や戦場など極限状態での撮影が必要で、確実に作動しシャッターチャンスを可能な限り逃さないというような目的のためには、あえて機能を簡略化するというのもひとつの方向性かもしれません。

固定焦点レンズと似たような言い回しの用語で「固定レンズ方式」や「レンズ固定式」というものが使われることがありますが、これは一眼レフなどのレンズ交換式カメラと区別する必要がある時にカメラ本体の形式に対して使われる用語で、「レンズ一体型」などと言われることもあります。

パースペクティブ

レンズの焦点距離によって、手前にある被写体と背景がどのくらい離れたように見えるか、という視覚効果のことをパースペクティブとか遠近感といいます。焦点距離が短いレンズほど、比率的に手前のものはより大きく、奥のものはより小さく表現され、奥行きがあるように表現されます。逆に、レンズの焦点距離が長くなるにつれて手前側と背景側の大きさの差は小さくなり、背景が手前の方に引き寄せられ、圧縮されたように表現されます。
(もっと解りやすい言い方をすると手前の被写体を同じ大きさになるように撮影すると広角レンズは背景にあるものは小さく写るが、望遠レンズの場合は広角レンズのときほどは小さくならない。)
パースペクティブはボケと共に焦点距離の違いにより表現が異なってくる大きな要素です。

 

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